金色の風船
困ったことに、ミチコさんは金色の風船を持ってぶらりぶらりと現れました。
「どうしたんだ、それ」
「お店の前でもらったのー」
しかも風船には《B'z》と大きくプリントされてるし。
いや、B'zが悪いのではなく、ふわふわ漂うそれを持って立っている彼女に問題があるのです。
写真展のギャラリーでは、作者を招いてのトークショー。みな真剣に静かに話に聴き入っています。
そこへ金色のアルミ風船を持つ(写真にはほとんど興味のない)女性を連れて入るのは、さすがに気が引けました。
「ここで待っていなさい」
犬のようだ、と思いながら僕はギャラリーの階上にあるカメラのサービスセンターで、必要な用事を済ませて降りると……
いない。ケータイに電話をすれどもつながらない。
いらいらと怒ってしまいました。怒るまいと思っても、やっぱり怒ってしまう。
20回目の電話でようやく通じると、ミチコさんは屈託なく、「いまねー、H&Mにいるの」
電話ブチ切り。
いかんなあ、と思いながら怒る自分を見ているもう一人の自分がいました。
ようやく再び落ち合って、お茶。
気持ちが収まらないのでケーキも追加。
落ち着いて帰るころ、ミチコさんが言いました。
「わたし、ビール飲みたかったんだけど、がまんしたんだよ」
こういうときって、褒めたほうがいいのかな。
そんな一日。
*エマニュエル・リヴァ写真展
HIROSHIMA 1958 詳しくはこちら→ (Click!)
五十年前(昭和33年)に広島を訪れたフランス人女優が写した素顔の広島。
二眼レフの低い視線と女性ならではの優しい視点が感じられました。
写真から原爆の影はほとんど見られませんが、それだけに平穏な風景の中にある平和のありがたさを感じさせてくれます。